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食が揺れる

2002/8/2 日本経済新聞
中国産の冷凍ほうれんそうや枝豆から食品衛生法の基準を越える残留農薬が検出されたことを受け、消費者が国産野菜を見直している。スーパーで産地直送や有機・低農薬など比較的価格が高い国産野菜が人気化し、国内産地では「ほうれんそう」を中心に出荷量が増えた。国産野菜へのシフトが進んでいる。
消費者国産野菜にシフト
東京都内の大学事務職員、上山美枝 さん(仮名、25)は残留農薬問題が表面化した半年ほど前から国産の減農薬・有機野菜しか購入していない。それまでは同じ野菜なら安い輸入品を選びがちだったが、今では「国産品のほうが信頼できる」と考えている。
東京都内在住の主婦、島田真紀子さん(仮名、30)も今では国産野菜しか食卓に載せようとしない。
「ほかにも残留農薬が多い輸入野菜があるのでは、と思ってしまう。有機野菜など、安全なものを選ぶのは当然」と話す。
こうした消費者心理がスーパーの野菜の売り上げ構成に影響を与えている。首都圏で8店舗を運営する紀ノ国屋では国産野菜の中でも、販売価格が高めな有機・無農薬野菜が20〜30%を占めているが、それでも店によっては前年比で10%近く売り上げが伸びたという。
東急ストアでも「健康野菜」の仮称で販売している有機・減農薬野菜の販売が好調。2000年度には野菜全体の売上高の8.5%だったが、今年度は20%を見込む。
ここ10年ほど、国産野菜は中国産を中心とする海外産に押され続けていた。農林水産省がまとめた食料需給表によると、2000年度の野菜の国内生産量は約1370万dとこの10年で12.8%減少。一方、輸入野菜(生鮮品)は2000年度が約300万dでこの間、ほぼ倍増した。
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輸入野菜がこれだけのハイペースで増えてきた第一の理由は国産との価格差。しかしデフレ下にもかかわらず消費者が割高な国産野菜へと回帰している現状からは、価格よりも安全を優先させる意識がうかがえる。
こうした安全意識は、食の安全に関する情報があまりに少ないことの表れのようだ。月刊誌「食べもの通信」を発行する消費者団体、家庭栄養研究会には「離乳食に冷凍ほうれんそうを使っているが、大丈夫なのか」といった問い合わせが相次いでいる。
同会の蓮尾隆子・運営委員長は「加工品なども含めると輸入食品への依存度は6割。食は命に直結するだけに、今回の問題を契機に消費者は食の安全についての勉強をする必要がある」と指摘した。
一方、国内産地は中国産野菜の需要が減った分、出荷贈が目立つ。JAいわてくし(岩手県久慈市)では6月末まで「ほうれんそう」の出荷数量が前年比8〜9%増えた。「こまつな」の出荷が最盛期を迎えている全農埼玉県本部園芸部は、「チンゲンサイなどからシフトが進んだと見られ、出荷量が前年を20〜30%上回っている」と説明する。
低価格より安全・・・民間が独自残農薬基準
しかし、国産野菜だからといって100%安全であるとは言い切れない。全国の約4万軒の農家が加入する自主組織、農民運動全国連合会(東京都豊島区)の食品分析センターでは残留農薬についての検査依頼件数が昨年の2倍に達した。
国産野菜の信頼を守ろうと独自基準を設ける動きも出ている。
首都圏一都五県の主要生活協同組合(生協)が加盟するコープネット事業連合(さいたま市)は昨年末から統一の残留農薬基準を設定した。サンプル調査で国の残留農薬基準値の2分の1を超えた野菜が出た場合は廃棄するか返品。野菜が基準に抵触した農家には農薬の散布記録をつけてもらうなどして問題点を洗い出し、共同で改善する。
日本消費者連盟の富山洋子・代表運営委員は「農薬を使用する以上、国産野菜も完全に安全だとは言い切れない。しかし生産者と消費者が互いに協力し合って自給率を高めていけば、より高い安全性が得られるだろう」と指摘する。国産野菜への期待を単なる『特需』に終わらせないためには、消費者が食の安全について学習するとともに、生産者側が農薬使用に関する徹底した情報公開を進める必要があろう。
課題多い国の検査
中国産冷凍ほうれんそうなど下ゆでされた冷凍野菜は加工品と見なされ、残留農薬問題が表面化した3月まで残留農薬基準が設定されていなかった。食品衛生法による輸入検査は同基準がない冷凍品には適用されず、冷凍ほうれんそうは検査を免れていた。
こうした経緯から国の対応は後手に回った。6月中旬、厚生労働省と農林水産省が担当官を現地に派遣したものの収穫期が終了していて、基準値を超える残留農薬がなぜ冷凍ほうれんそうで集中して検出されたのか、原因究明はできていない。
厚労省はチェック体制強化として7月から中国産の冷凍ほうれんそうについて1ロットあたりの検体数を8から16に倍増させた。また、下ゆでされた冷凍野菜の残留農薬検査の対象を3月に指定した18品目からすべての野菜に拡大した。
もっとも課題は多い。
国内外で使われている約700種類の農薬のうち、肝心の残留農薬基準があるのは現在229種類。厚労省では毎年約20種の認定ペースを今後さらに早めるとするが、完了の期待は不明だ。
検査内容についても蓮尾隆子・家庭栄養研究会運営委員長は「書類審査だけで通過させる例も多く、生鮮野菜の検査率でさえ総輸入量の3・4%にすぎない」と指摘し、新たに加工野菜の検査が加わることの実効性を心配する声も出ている。
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