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混迷の度合い深める農薬情報

減農薬は安全・安心なのか?

新農林技術新聞・・・2004/11/25
減農薬、安全・安心を保証・・・指導者層まで錯覚蔓延
 減農薬は、いまや「安全・安心」というイメージを具現化する象徴的な合い言葉となりつつある。
 減農薬栽培はいわゆる無農薬栽培のような趣味的なものとは異なり、生産者が比較的取り組みやすい概念といえるが、幅広い内容を含むことから、地域慣行の半減以下にとどめた場合に特別に認証する制度なども出来ている。生産者にとってみても、農薬は決して安いものではなく、散布労力などを考えれば減らすにこしたことはない。また、厳しい競争と生産物の価格低迷の中でいかに生産物に付加価値をつけるかという点からも、減農薬への指向性が支持されるのはある意味で当然であろう。
 しかし、ここで問題にしたいのは、それが生産物の安全・安心をあたかも保証しているかのような認識と宣伝がなされていることである。そして、そのような認識が生産者や流通関係者のみならず、指導者にまで蔓延しているかに見えることである。
最も的確かつ経済的な農薬
 このことを考えるうえで、まず慣行防除の意味をみていかなければならない。農薬は病害虫や雑草の防除管理が必要だから使われている。もちろん農薬以外の防除方法が採用できる場合もあるが、多くの場合、農薬が最も的確かつ経済的なため、生産者はどうしても農薬に頼る。農薬の必要性や経済性については、科学的な調査結果や生産者の意識調査からも明確に裏付けられている。
 一方、農薬の安全性については、農薬登録に当たって膨大な種類のデータが審査され、十分な安全を見込んだうえで登録がなされている。ただ、どんな薬でも用量を誤れば毒と化すことがあるように、安全が確保できる使用方法を守って使用することが重要である。
 農薬取締法の改正により、使用方法の遵守の徹底が図られるようになり、この点に対する不安は以前よりも格段に解消した。従って、定められた使用方法を守って幾つかの農薬を使用した農産物は、それが慣行防除であったとしても、十分な安全が確保されていると考えることができる。
残留農薬への誤解払拭を・・・
 生産物の残留農薬に対する誤解の一つは、ある農薬を1回使った場合よりも2回使った場合のほうが格段に残留量が増えると認識されている点にある。ところが、残留量に影響するのはむしろ収穫により近い時期に散布した1回であり、十分な間隔があいていれば生育期間中に何回使っても残留量に大きな差はない。
 例えば、収穫前日に1回だけ散布した場合と、収穫1週間前までに2回散布した場合とを比べると、前者のほうが残留量が多いのがむしろ一般的である。従って、回数を減らしたからより安全だというのは正しくなく、回数よりもいつ使ったかの説明のほうがよほど重要である。
 しかしながら、そもそも農産物からの農薬の検出率自体かなり低いことは、厚労省をはじめとする多くの調査結果からも明らかで、どちらが安全かなどと議論すること自体、ナンセンスである。
種子消毒と微生物農薬が登場
 より積極的に減農薬を進めようとすると、防除体系の中からいかに減らせる部分を見つけるか、に腐心するようになる。例えば稲について考えてみると、優れた箱剤の普及によって本田防除は大幅に減らすことができたが、既にギリギリのところまで完成されてきた防除体系のため、それ以上となるとリスクが大きすぎてなかなか難しい。そこで目がつけられ始めたのが種子消毒である。
 稲の種子消毒には2種類くらいの農薬が使われることが多いが、もしそれ以外の手段が使えれば、成分ベースで2回減らしたことになって、減農薬推進にはまことに都合がよい。優れた微生物農薬の登場はこうした要求と見事にマッチする。
 こうした努力自体はもちろん評価されなくてはならない。しかし、もともと種子消毒に農薬を使っても生産物の残留リスクは皆無に等しいのであるから、廃液処理など環境面での改善ならともかく、生産物の安全が高まったことにはならない。
減農薬至上が生んだ「農薬まがい」の資材
 農薬の代替手段としてまがいものの資材を利用するという問題もある。農薬取締法改正に際しては当然この点も問題になり、特定農薬という制度が新たに設けられた。しかし、国や県が調べてみるとそのような資材の種類は思った以上に多く、中には安全性に大いに疑問のあるものが含まれていた。
 こうした農薬まがいの資材がもてはやされる背景にも、減農薬を至上とするゆがんだ安全・安心の意識があるのではないか。
 そもそも、成分回数をカウントするルールはどんな議論を経て出来上がったのであろうか。除草剤は労力を少しでも軽減するために、わざわざ幾つかの成分を組み合わせた混合剤を生み出してきた。殺虫剤は環境調和の観点から、広範な害虫に効果を示すものから、特異性の高いものへと変遷が進みつつある。
 ここに成分回数のルールを持ち込んで総回数を制限したら、これらと全く反対の方向に進みかねない。事実、殺虫剤などは1回でできるだけ広範な害虫に効果を示すものを求める現場が増えてきているとも聞く。
 一方では、IPMの推進がこれまで以上に求められ始めているが、回数ばかりを重視する風潮のもとでは、所詮「手抜き防除」にしかなり得ないのではなかろうか。
健全な減農薬の進展を望む
 とはいえ、いくら農薬の安全性を説明しても、一般には「それでも不安だ」とする認識があるのも事実である。安全性評価そのものに対し疑義を唱える人たちもいる。こうした幾つかの疑問に対し、最近の取り組みは新しい解答を与えつつある。例えば環境省の農薬環境懇談会報告書(平成14年12月)では、幾つかの論点について一定の整理を行っている。危機感をもって注目された、いわゆる環境ホルモン問題もここにきて大幅にトーンダウンしている。農薬による環境負荷がこれまで考えられていたよりも小さいのではないか、という報告も散見されだしている。こうした情報や農薬適正使用の徹底は、農薬に対する不安の原因を一つずつ解消していける材料を少なからず提供している。
 減農薬は意義のある取り組みではあるが、安全・安心と短絡的に結びつけるゆがんだ動機からではない、健全な進展を願いたい。
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