関連記事>
「 生態系への影響」を提言

農薬の毒性評価見直し

農薬の毒性評価の見直し作業が始まった。
東北大学教授を座長とする環境庁の農薬生体影響評価検討会は、人の健康や生活環境の保全が主眼だった従来の影響評価に、野生生物や生態系への影響評価を付け加えるよう提言した。今後、中央環境審議会で論議し、農薬取締法による評価方法の改正に向かうが、農薬による深刻な環境汚染で、水生動植物への毒性評価を加えた1963年以来の大きな見直しとなる。農地や排水路などの農業用施設は、評価対象から外し、農家に直接的な影響はない見込みだが、評価方法次第では農薬のコストアップにつながりかねない。農薬の適正使用が、今まで以上に農家に求められることは必至だ。
背 景
わが国の農薬評価は、農薬取締法に基づき作物や土壌残留、水質汚濁、水生動植物への毒性について評価基準を設定する。しかし、対象となる水生動植物は鯉やミジンコなどに限り、野生生物や生態系に対する影響評価システムは整備されていない。欧米各国は既に生態系への影響を評価する仕組みを整備。水生生物では魚類、ミジンコ、藻類の急性毒性試験を義務付け、陸棲生物でも、鳥類、ミツバチ、ミミズ、土壌微生物、陸生植物への生態毒性試験が行われている。農薬から生態系を守る点で欧米に後れをとった環境庁は、「わが国の試験方法は整備されているとはいえない。国際的な整合性を図りたい」(土壌農薬課)と見直しに踏み切った。
方 向
見直しは、従来の影響評価に加え、野生生物の中から代表的なものを複数選び、実験室レベルでの毒性評価と、生殖する現場で浴びる農薬の量で危険度を判定。さらに、登録後の生態影響調査を行い、農薬の再評価を行う仕組みを探る見込みだ。
農薬の新たな危険評価システムの概略
評価システム
重要なのは、モデルとなる生物種の選定だ。同庁は「農村の農地の周辺は、豊富な生物か生殖している貴重な生態系。大事に守ると共に、農地周辺に豊かな生態系を取り戻したい」と、里山などの二次的自然の保全に意欲を示しており、農薬影響評価でも、農地周辺の希少野生生物やメダカ、藻類などが候補に挙がっている。
影 響
野生生物への影響評価で、農地に住むミミズや昆虫などの生物、用排水路を含む農業用施設の生物は保全対象から外した。「農地では害虫や雑草を退治する目的で農薬をまくので、そこの生物の保全は現実的に難しい」(環境庁土壌農薬課)
欧米でも生態影響で否定的な評価が下された農薬でも、経済的利益から再評価するシステムを採用している。農地や農業用施設は対象外となったことで、使用できる農薬が極端に減る事態は避けられそうだ。しかし、農薬登録の際、野生生物や生態系に悪影響があると判断されれば、登録が保留され、農薬の品質改善の指示が出る。登録後、予想しなかった悪影響が出た農薬も再評価され、農家が使える農薬の種類は少なくなる。当然農薬メーカーの生産コストは上がる。農薬のコストアップについて、農水省は「対象となる野生生物など、評価システムがはっきりしない。どうコストアップに跳ね返るかが焦点」(植物防疫課)と、議論の行方を注目している。評価基準をクリアし、登録される農薬でも、生態系への影響を少なくする観点から、使用方法や使用場所が今まで以上に制限されるのは確実だ。しかも、環境庁は「わが国でも環境保全型農業の機運が盛り上がっており、農地以外へ影響が及ぼさないようにする必要がある」と判断。農水省と連携して、影響の少ない代替剤の使用、新し生息環境の確保などで、危害を極力抑える道を探る。農家にとっては、農薬の適正使用、削減がこれまで以上に求められることになる。環境庁は、3月末までにまとまる同検討会報告を踏まえ、来年度から中央環境審議会で制度改正を含めた議論を行う予定だ。