TOPICS>2001年4月

セーフガード

ねぎ等3品目の農産物、暫定輸入制限発動へ

中国産の農水産物に対する緊急輸入制限措置(セーフガード)議論が白熱、発動された場合に市況に及ぼす影響が取りざたされている。生産者は低迷する価額の底上げ効果を期待するが、商社やスーパーなどの量販店は「安さが魅力の中国産は品質の向上も進み、なくてはならない存在」と発動そのものに反発、大きな市況の流れも変わらないと冷ややかな見方が多い。
セーフガード議論白熱、市況への影響探る
昨年12月に政府がセーフガード発動に向けた実態調査を始めたのは「ねぎ」と「生しいたけ」、「畳表(いぐさ)」の3品目。中国産ねぎの輸入は1998年から増加し、2000年は前年比8割増の約37400dに達した。生しいたけや畳表(いぐさ)も増加中。
ねぎ、生しいたけ、いぐさの国内シェアと輸入量
国内シェア 輸入量

千葉や群馬、埼玉などを主産地とするねぎの生産者は、「中国産の輸入急増で外食・加工業者向け出荷ルートが断たれた。出荷価額も5kgあたり800円前後だった3年前に比べ、現在は300〜400円と半値以下に下がった」(千葉県のJA山武郡市)と窮状を訴える。
政府が発動を検討しているのは「暫定的」セーフガード。
正式なセーフガードと違い、輸入数量は制限できない。輸入品と国産品の内外価額差分を現行の関税に上乗せし、国産品の価額競争力を輸入品と等レベルまで高める手法だ。
この関税率引き上げの効果には疑問符が付く。「関税の上乗せ分程度は輸入価額の一層の引き下げで容易に切り抜けられる」(大手商社)からだ。現行の関税率はねぎが3%、生しいたけ4.3%、畳表(いぐさ)6%、ねぎの場合、2000年の国内平均卸値は1kg当たり206円。これに対し輸入価額は1kg当たり91円と国内卸値の半分以下だ。
当の中国には「もともと日本向けに特化して育種、栽培しているため、価額をもう一段下げてでも売りたいという事情もある」(日本貿易振興会)。
また日本国内には外食向けを中心に既に大量の輸入野菜が流通するルートがある。安定供給を目指す商社の間では「あえて割高な国産にシフトする考えはない」(丸紅食料)とする声が強い。食材として使うねぎの約9割を中国産で賄う外食チェーン「北の家族」の仕入れ担当者も「安価で相場変動が小さい中国産は扱いやすい。品質も国産と同等なので、原価率を抑えるために積極的に取り入れている」と話す。
農水省は輸入野菜の植物検疫について一日当たりの処理件数に上限を設定し、「見切り発車」の形で事実上の輸入数量制限に乗り出した。しかし暫定的セーフガードの有効期間はわずか200日。「生産コスト削減や生産力向上への取り組みが遅れている」(日本施設園芸協会)まま、日本のセーフガードがどんな影響をもたらすのか、市場関係者の不安は尽きない。
暫定セーフガードの対象品目

輸入量(シェア・%) 国内平均価額 国内の主な産地

96年 2000年 96年 2000年
ねぎ 1504d
(0.4)
37375d
(8,2)
252円/kg 222円/kg 千葉、埼玉、茨城
生しいたけ 24394d
(24.5)
42057d
(38.5)
1079円/kg 915円/kg 群馬、岩手、北海道
畳表(イグサ) 113万枚
(29.7)
2030万枚
(59.4)
1302円/枚 970円/枚 熊本、福岡、広島
セーフガード発動に伴う問題点
海外から反発必至
暫定措置の発動には「輸入増加を放置すれば国内事業者に回復しがたい損害を与える」という世界貿易機関(WTO)の定めた条件を満たす必要がある。WTOは損害を判断する指標として輸入品の増加率や販売価額の変化など9項目を挙げるが、それぞれに数値基準があるわけではない。各国の過去の発動例などを参考にして、輸出国を納得させることができるデータかどうかを検討するのである。
財務省や経済産業省の担当者の間では、政府が3月22日までに集めたデータでは、暫定措置の発動は難しいとの見方がある。3品目の中で特にねぎは輸入品のシェアが小さく、国内農家の生産量にもあまり変化がないといった問題点が指摘されている。
通常のセーフガードは輸入数量の規制だが、暫定措置として実施するのは関税率の引き上げだ。関税は輸入商品の国内販売価額を国内産品と同水準にすることを狙って、国内の適正な卸売価額から海外商品の輸入価額(通商の関税を含む)を差し引いた分まで引き上げることが可能。適正な卸売価額について特に決まりはないが、財務省は国内事業者が損害を受けるようになる前の水準を参考にする考え。
最長200日間とはいえ、輸入価額と国内価額は原則として同じになり、消費者への影響は大きい。
宮沢喜一財務相は「消費者側の反発は聞こえてこない」と延べ、発動しても消費者の批判は小さいと見ている。
ただ、価額が急に上昇することになれば輸入制限に反対する声が強まる可能性がある。
暫定措置の発動で懸念される問題として、中国側が対抗措置をとりかねないことがある。韓国が2000年6月ににんにくでセーフガードを発動した時、中国は韓国からの携帯電話とポリエチレンの輸入を禁止した。
国内農業の改革棚上げ
1960年代の繊維から90年代の鉄銅まで、米国の反ダンピング措置などの輸入制限を批判してきたのは日本だ。政府がねぎ等3品で暫定セーフガードを発動する方針を決めたことは、日本の通商政策が大きく転換することを意味する。
ウナギ、ワカメからタオルまでセーフガードの発動要請が政府に来ている。ねぎ等で発動が実現すればその数がさらに増えることは必至だ。
しかし、国内資源が乏しい日本が輸出で国内経済を支えていかなければならない状況に変わりはない。日本が自由貿易を標榜(ひょうぼう)してきたのは、それが輸出の拡大につながっていたからだ。
発動することになれば、中国が報復として日本が輸出する工業品の輸入を制限する可能性がある。BNPパリバ証券東京支店の 河野 竜太郎 経済調査部長は「セーフガード発動は日本経済にとってマイナス」と指摘している。
政府がこうした懸念を無視して発動の方針を決めたのは、7月の参院選を意識した自民党への配慮があると見られる。経済産業省のある幹部は「発動という結論が最初にあり、それに向かって調査や検討が進んだ」と不満をぶちまける。
セーフガードの発動準備に当たって、農水省は国内の生産者が進めるべき構造改革を示していない。構造改革を進めなければ、農産物の国際競争力の欠如という問題が先送りされるだけになる。
日本を揺さぶる中国影・・・野菜輸入急増の本当のワケは?
農水省によると、生鮮野菜の輸入量は1998年から3年連続で増えた。特にねぎ類は急増が目立ち、昨年は97年の5倍の42000d。競合する国産ねぎの卸値は東京の市場で2割近く下がった。値下がりは不況や株安で消費者が財布の紐を締めているからでもなさそうだ。
大手卸会社・東京青果の取締役 川口 勤さん(59)は、「98年の不作が輸入増のきっかけ」だと話す。輸入品は端境期の穴埋めが中心だったが、外食産業やスーパーが安定供給を求め通年輸入を増やしてきた。昨年の同市場の外国人見学者を調べると、870人の韓国を筆頭に台湾、中国も多い。アジア勢が日本で野菜の情報を仕入れて輸出攻勢を広げている。野菜輸入元の首位は98年に中国が米国を逆転した。ねぎ、生しいたけは大部分が中国産。韓国産ミニトマトなども増えてきた。東京農業大学の 籐島 広ニ 教授(52)は、「97年からのアジア通貨危機も対日輸出増の一因」と話す。アジア各国は外国で安く売れる自国通貨の下落を利用し輸出に務めた。その時期が日本の不作と重なり恒常的なルートができたのである。
有力ねぎ産地の埼玉県深谷市の農協によると、「現地農家の努力だけではない。日本の商社などが国内で人気のある品種のタネを持ち込み生産を指導している。」との意見もある。日本人が現地に生産委託した野菜と国産品が競っているのだ。
商社・田村はアジアなどの11ヶ国・地域で農場を借り、たまねぎ等約40品目を日本向けに作る。人件費は日本の1/10以下。国産品の半値以下で国内に卸せるという。野菜輸入のかなりの部分をこうした開発輸入が占める。
農林中総合研究所の副主任研究員 ルアン・ウェイ(中国)さんに説明を求めると、「比較的高く売れる野菜の増産を中国政府が奨励し始めたからです。でもそれは韓国も同じ。中国だけの深い事情があるのです。農村の所得を増やさないと、豊かな都市との格差が広がり、中国社会が揺らぎかねません」。中国では2000年に、都市と農村の一人当たりの所得格差が97年の2.47倍から2.79倍に広がった。野菜の作付け面積は1500万fと90年の2倍以上に拡大。一方、生鮮野菜の輸出量は98年から増えつづけ、昨年、140万dに達した。
中国の野菜の作付け面積 日本の生鮮野菜の輸入国と主要輸入元
---中国政府資料 ---農水省資料

中国内での需給は97年ごろから過剰。余った野菜を日本などに輸出することで国内相場を下支えし、外貨獲得も増やすという一石二鳥の戦略である。
中国は野菜を世界貿易機関(WTO)加盟後の主力輸出品の1つに育てる考えである。日本への輸出はまだ増える。中国の輸出は韓国などにも向かい、押し出された分が日本に流れている。
すなわち、輸入急増の背景には、国内の経済格差の縮小を目指す中国の供給能力の拡大政策がある。これに乗じて日本企業がタネや生産技術を持ち込んだのである。
安くておいしい野菜の増加は結構であるが、中国が急に穀物生産重視に方向転換する可能性を指摘する専門かもいる。中国の輸出余力が低下した時に備え、国内農家の体質を強化する必要がある。農水省によると90年に91%だった野菜自給率は99年、83%に下がった。野菜の需給さえも隣の大国のさじ加減1つで変わるのである。
野菜、繊維、資源・・・
中国の影響が様々な面に広がってきた。
自民小委、セーフガードで「種苗会社」と「消費者団体」の意見聴取
自民党は3月21日、農業基本政策小委員会を開き、野菜などの一般セーフガード(緊急輸入制限措置)発動に関し、種苗業界や消費者団体からの意見を聞いた。この中で、日本種苗協会の 渡邊 会長は、「優秀な種苗は輸出しないことを申し合わせている」などと述べたが、出席した議員からは「日本から種子が入っていることは事実だ。実態と違う。」などの批判が相次いだ。
輸出実態に批判も
同委員会で意見を述べたのは、種苗業界を代表して、渡邊 日本種苗協会会長、佐久間 寛・サカタのタネ会長、伊藤 繁治・タキイ種苗常務の三氏。消費者団体からは 日和佐 信子・全国消費者団体連絡会事務局長と 藤岡 武義・日本生協連常務のニ氏が意見を述べた。
中国や韓国からの野菜輸入の急増に関し、「日本の種苗会社が種子を持ち込んで生産を指導しているからだ」との批判が強まっている。
渡邊会長らは、「(作り続けても形質が変化しない)固定種は自家採取が可能で、知的所有権も及ばない」などとして、中国や韓国への流入を規制することはできないとの考えを表明した。
ただ、渡邊会長は「94%を国内に売っている種苗会社にとっても(国内産地の衰退は)死活問題だ」として、「優秀な品種は輸出をしないことを申し合わせており、業界全体に浸透させたい」と弁明した。
日和佐 全国消団連事務局長は、「セーフガード発動で安い輸入野菜が入ってこなくなることは家計の中では厳しい」としながらも、「要件を満たせば、(発動に)異見はない」と表明した。ただ画一的な品種での周年栽培より、端境期には輸入するような国内生産の戦略を提案した。藤岡 日本生協連常務は、「安全性や品質、価額の面で、消費者の要望にこたえることが必要だ」と注文した。
中国向け野菜種子急増
日本種苗協会は3月21日の自民党農業基本政策小委員会に、野菜種子の中国への輸出状況を明らかにした。1996年の輸出量は85dだが、2000年には2倍以上の207dに急増した。主要国への輸出総量はこの間、1394dから1484dへと6%増にとどまっていた。韓国に対しては、300d台で推移している。
大手種苗会社のサカタのタネによると、同社の中国へのねぎ種子輸出量は、98年170`、99年400`、2000年25`。
韓国に対しては、ミニトマトの種子を、96年17`、2000年1`輸出した。
一方、タキイ種苗の中国に対するねぎ種子輸出量は、96年70`から2000年は245`で、4年間で3倍以上も増やした。
食品業者が技術指導・・・農水副大臣視察結果
農水省は3月21日、松岡 利勝 副大臣による上海の農場などの視察結果を公表した。日本に輸出する きゅうりについて中国側は、サカタのタネとタキイ種苗、久留米原種育成会のF1(一代交雑種)種子を中国の代理会社を通じて購入。栽培や塩漬けなどの技術指導はキューピーが提供、出荷先はキューピーの小会社と食品スーパーのマルエツであることを明らかにした。
また、キャベツとねぎは大阪の商社マルソクと契約し日本に輸出、種子は協和種苗のF1を上海の種苗会社を通じて入手していることも明らかにした。中国側は、「仮に日本から種子が来なくなれば、日本には輸出できなくなる」と延べている。
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