TOPICS>2002年7月

「東京野菜」を伝承・復活

農業が衰退した東京近郊の農家で伝統野菜栽培の伝承、復活を目指す動きが本格化している。
川崎市の農家は江戸時代の大飢饉(ききん)を救った伝説野菜の継承活動を開始。東京都の研究機関は都内で収穫できた幻の瓜(うり)の商品化に取り組み始めた。産地偽装問題が相次ぎ、食への信頼が揺らぐ中、生産者の顔が見える伝統野菜で「東京農業」再生をめざす。
首都圏の農家が栽培
多摩川中流に広がる川崎市多摩区菅野戸呂(すげのとろ)地区。60年近く農業を営む高橋孝次さん(70)は江戸時代の天明・天保の大飢饉を救った伝説の野菜野菜「のらほう菜」の伝承・復活に取り組んでいる。
のらぼう菜はアブラナ科の野菜。味は菜の花に似ているが甘みが強く灰汁(あく)も出ない。「ご飯と同じで毎日食べ続けても飽きない味」(高橋さん)だ。
「当たり前だと思っていた野菜が歴史上重要な野菜だと知った」ことが栽培に本格的に取り組み始めたきっかけ。昨年2月、有志20人を募って「菅のらぼう保存会」を旗揚げした。
作付面積は約40アール。来年には5割増の60アールに増やす。母校の小学校でも「のらぼう菜」の由来や食べ方を教える。「若い世代に伝統野菜を理解してもらい消費が増えれば」と期待する。
東京23区内でも伝統野菜の復活に取り組んでいる人がいる。葛飾区高砂で農業を続ける鈴木藤一さん(74)は、江戸時代から昭和時代初めにかけて特産品だった「亀戸大根」を50年以上栽培している。
大根は寸胴のイメージが強いが、亀戸大根は色こそ白いが形はニンジンに似ている。辛味があり「深川名物のアサリ鍋にぴったり」という。
宅地化の進行で亀戸大根を栽培している農家は今では2、3戸に激減した。鈴木さんは「作れば行列を作って大根を買い求めるお客さんがいる」と指摘。「採算は度外視しても伝統は守り抜く」とこだわりをみせる。
伝統野菜も売れなければ意味がない。東京都立食品技術センター(千代田区)の有田俊幸主任研究員は伝統野菜をどのようにして商品化するかに知恵を絞る。
取り組んでいるのは都内で普通に収穫できた幻の瓜「東京大城瓜(おおしろうり)」の商品化。
瓜は直径10センチ以下だが東京大城瓜は15センチ以上と巨大だ。「大味だが漬物にすると堅めの歯ごたえが病みつきになる」(有田さん)味だ。
「消費者は見慣れない形の野菜を敬遠するが、漬物などに加工すれば味で勝負できる」といい、加工品の形で伝統野菜を後世に残したい考えだ。
栽培に手間がかかる伝統野菜は少量生産で割高。それでも消費者が増えている背景には生産者の顔がはっきり見え、信頼できる野菜を買いたいという欲求がある。
地元JA店での販売にとどまるがスーパーなどへ販路拡大を狙う。商業ベースだけで割り切れないのが「食」の世界とすれば伝統野菜が生き残るチャンスも十分にある。